複雑で豊かな味わいが魅力の日本酒は、数多くの繊細な工程を経て造られています。その過程で重要な役割を担っているのが、微生物です。日本酒が完成するまでには麹菌や酵母菌などさまざまな微生物が関わっています。今回は、日本酒造りに欠かせない微生物の種類と役割についてご紹介します。
そもそも微生物とは?
そもそも微生物とはどういったものを指すのでしょうか。微生物とは特定の生物を指す言葉ではなく、目に見えないくらい小さな生物の総称です。ウイルスや細菌、酵母、カビ、キノコなどの菌類、微細藻類、原生動物など、その種類はさまざまです。一部では人や動植物に対して病原性を持つ微生物もありますが、一方で食品の味や栄養価を高めるために活用されるものもあります。 日本酒をはじめ、日本で古くから親しまれてきた醤油、味噌、納豆など……身近な食品の中でも微生物の働きを活かして作られているものは数多くあります。微生物の「発酵」という働きにより食品のおいしさを引き出し、さらに腐敗を起こす微生物から食べ物を守っています。日本酒造りに必要な微生物は4種類
日本酒造りに必要な微生物は、以下の4種類です。
- 麹菌(こうじきん)
- 酵母菌(こうぼきん)
- 乳酸菌(にゅうさんきん)
- 硝酸還元菌(しょうさんかんげんきん)
麹菌の役割
麹菌とは、麹をつくるための糸状菌の総称を指します。日本をはじめ、東アジアや東南アジアなど湿度の高い地域にしか生息していないカビの一種です。発酵食品に麴菌を使うのは日本だけで、その固有性から2006年には日本の「国菌」として認定されました。麹菌にもさまざまな種類があり、日本酒によく使われるのは「紅麹菌」「黒麹菌」「黄麹菌」などです。 日本酒造りには、蒸した米に麹菌を繁殖させた「米麹」が必要不可欠です。日本酒の原料である米には糖の元となるデンブンは含むものの、糖そのものは含まれません。そのためアルコールを発生させるためには、麴菌の働きによりデンプンを糖に変える必要があります。また、日本酒ならではの豊かな風味を引き出す役割もあります。酵母菌の役割
酵母菌とは、キノコやカビなどと同じ「真菌類」に属する微生物の一種で、植物や樹液、野菜や果物の表面、土壌、海水、空気中など、自然界のあらゆるものに広く生息しています。酵母菌には糖をアルコールと炭酸ガスに分解する働きがあり、日本酒のアルコールを生成するために重要な役割を担います。また日本酒をフルーティーに仕上げる効果もあります。乳酸菌の役割
乳酸菌とは、炭水化物などの糖を利用して乳酸を大量に作り出す微生物の総称を指します。乳酸菌が生成する「乳酸」は、日本酒造りに必須な微生物や酵母が活発に活動できるよう、ベストな環境を整えてくれます。ただサポートをするだけの存在でなく、まろやかで味わい深い日本酒を造るために乳酸菌は欠かせません。日本酒の品質や味わいの劣化の原因となる雑菌を淘汰したり、酵母を増殖したりする重要な役割を担います。硝酸還元菌の役割
硝酸還元菌とは、水の中に含まれている硝酸塩を、亜硝酸に還元する役割を持つ微生物を指します。硝酸還元菌は、「生酛系統」と呼ばれる乳酸菌を自然な形で増殖させる手法の初期段階において必要です。日本酒造りにおいては、硝酸還元菌から生成された亜硝酸と乳酸の共存による相乗効果で抗菌成分が働き、安全性や品質の高さを維持してくれます。
微生物の力で造られる日本酒のおいしさ
今回は、日本酒造りに欠かせない微生物の種類と役割についてご紹介しました。日本酒は、微生物の働き一つひとつに味わいを左右されるとても繊細なお酒です。 京仕込キンシ正宗では、創醸天明元年(1781年)より京都の水と酒米、そして麹造りにとことんこだわった酒造りを続けています。微生物の力によって日本酒が完成するまでの長い過程に思いを馳せながら、ぜひ格別な味わいを楽しんでみてください。